皆様が行政書士に仕事を依頼しようとしたときに、行政書士事務所によって報酬額に差があることにお気づきになると思いますが、お客様からも「報酬額が高い事務所と安い事務所は何が違うの?」というご質問をいただくことも多いです。
たしかにお客様からすると、何が違うのかがわかりにくいのではないでしょうか。
そこで本稿では、わたしたちが考える、報酬額が高い行政書士事務所と、報酬額が安い行政書士事務所の違いについて紹介したいと思います。
もちろん高い事務所が良くて、安い事務所が悪いというわけではありませんので、状況に応じてどの行政書士事務所に依頼するか検討する材料にしてみてください。
各事務所が様々な理由で報酬額を決めており、なかなか一般化して語るのも難しいところなのですが、少しでも皆様の行政書士選びの助けになれば幸いです。
この記事の内容については、当然に例外も存在しますし、必ずしもすべてのケースに当てはまることでない点はご承知おきください。
※この記事は、わたしたちが専門とする許認可業務を前提に書いています。
専門性と工数
行政書士事務所の報酬額の差を生んでいるのは、主に、
- 依頼内容の専門性
- 行政書士側の工数
の2点です。
依頼内容の専門性
行政書士事務所の報酬額は(かなり雑な表現にはなってしまいますが)、
”どの行政書士事務所でもできる案件(専門性が低い)は安く、取り扱える行政書士事務所が少ない案件(専門性が高い)は高い”
という傾向があります。
専門性は、「お客様の困難な課題を解決する力」と言い換えることもでき、具体的には、
- 法令の知識
- 業界の知識
- その分野の業務経験、実績
- 業務遂行に関する各種のスキル
- 様々な専門家とのネットワーク
- これらの総合力としての課題解決方法の提案力
などに分けることができます。
専門性の判断を誤ると大きな損害が生じることも
ただ、ここで問題になるのが、自分たちが行政書士事務所に依頼したいと考えている内容の専門性の高低を、お客様自身で判断するのが難しいという点です。
さらに、行政書士の側でも、専門性が高い内容なのかどうかは、ある程度の知見がないと正確には判断できません。これには行政書士が取り扱う業務が非常に広範囲におよぶため、ひとつの行政書士事務所がすべての分野を高いレベルでカバーするのがほぼ不可能という事情によるところも大きいです。
すると、”実は高い専門性が要求されることを、専門性が低い行政書士事務所に(安価な報酬額に惹かれて)依頼してしまう”という悲劇が起きてしまうことがあります。
こうなってしまうと、いざ案件が動き出しても、次々に問題が生じてしまい、最悪のケースでは案件が頓挫してしまうこともあります(こういった状況になってからご相談いただくケースも実際に少なくありませんが、リカバリーは非常に困難であることが多いです)。
行政書士業務の中でも、特に許認可手続きというものは、事業の前提です。
そのため許認可手続きが遅れれば、その間に得られたはずの売上を失うということになり、数万~数十万円の行政書士報酬を出し渋った結果、数カ月分の売上を失うことになってしまいます。
そのため、「確実にこの日から事業開始したい」といった場合には、多少高くても専門性の高い行政書士事務所を利用した方がリスクが低く抑えられます。
逆に、事業開始時期をあまり気にしなくても良いという場合など、一定のリスクは許容できるという場合であれば、報酬額の安い行政書士事務所を選んだ方が良いかもしれません。
行政書士側の工数
行政書士事務所の報酬額を決めるもうひとつの大きな要素は、行政書士側の工数です。これは多くの方にとってイメージしやすいかもしれません。
”工数がかかる依頼内容であれば報酬額は高く、工数がかからない依頼内容であれば報酬額は安く”
ということです。
工数については、
- お客様への進捗報告の頻度
- 現地確認の有無
- 証明書などを行政書士が取得するのか、お客様が取得するのか
- 案件に関与する人数
- 行政機関との事前協議をするかどうか
- 担当者への対応の丁寧さ(様々な質問への対応や社内説明用資料の作成など)
- 許可証などを行政機関から代理受領するかどうか
など、様々な部分で差が生じます。
工数をかけて丁寧に業務を進める行政書士事務所は報酬が高く、効率とスピードを重視して工数を少なくする行政書士事務所は報酬が安い傾向があります。
工数については相性による部分も大きいのではないかと思いますので、ご自身がどのようなサービスを好むかを前提に予算との兼ね合いで選ぶのが良いのではないでしょうか。
番外編
報酬額が安い行政書士事務所の中には、上記に当てはまらないケースがいくつかあります。
- プロモーションやキャンペーン
- ビジネスとして成り立たせる必要がない
- 仕事を獲得するため
といった辺りが代表的なパターンです。
プロモーション・キャンペーン
行政書士に限った話ではありませんが、”他に利用してもらいたいサービスがあるときに、お客様と接点を持つために価格を下げる”ということはよくあります。
例えば、行政書士事務所とコンサルティング会社を経営していて、コンサルティング会社がメイン事業である場合に、コンサルティング会社のサービスを利用してもらうためのプロモーションの一環で、安い報酬額で行政書士業務を行うということがあります。
また、新たなサービスを提供するときに、実際の利用者からフィードバックを受けたり、課題を見つけたりするために、まずはキャンペーン価格として安い料金で利用してもらうというのも含まれます。
ビジネスとして成り立たせる必要がない
持ち家で年金暮らしの老夫婦が「若い人にお腹いっぱいになって欲しい」と言って、採算度外視で料理を提供しているような飲食店がテレビなどで紹介されていることがありますが、同じように採算度外視で行政書士事務所を運営しているケースがあるようです。
仕事を獲得するため
当然行政書士事務所の間でも価格競争はありますので、価格を下げるという選択肢を採る事務所も多く存在します。
中でも事務所の開業直後に、経験を積むためなどの理由で極端な低価格を打ち出す行政書士事務所もあります。
こう書くと悪いことのように受け取られてしまうかもしれませんが、お客様側からすれば、安い報酬額で自分の依頼のみに全力で動いてくれるとも考えられるわけで、実績や経験の少なさというリスクを受け入れられるのであれば、必ずしも悪い選択ではないケースもあるのではないでしょうか。
おわりに
行政書士法人シグマは、専門性が高く、工数が多めで、比較的報酬額が高めの行政書士事務所であるため、ポジショントークになってしまった部分もあるのですが、冒頭でも述べたように、「高いから良い、安いからダメ」というわけではありません。
許認可が必要な事業をしている事業者様にとって、費用面だけでなく、経営方針なども含めて相性の合う行政書士事務所に出会うということは、非常に大きなメリットがあるはずですので、この記事の内容などを頭の片隅に置いておいていただき、行政書士事務所選びをしてもらえればと思います。
運輸、旅行、古物商といった分野で、専門性が高く、丁寧な仕事をする行政書士事務所を探している事業者様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度わたしたちにご相談ください。
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文:泉谷守信(行政書士)