軽貨物運送会社の設立

黒色のナンバーを付けた軽貨物車を使って行う運送事業は、貨物軽自動車運送事業と呼ばれております。

貨物軽自動車運送事業は、一般貨物自動車運送事業と比べると車両1台から起業できるため、個人事業として始められる方が多いのが特徴です。

とはいえ、複数台の軽貨物車を保有し、大手運送会社のチャーター便の運行を担っている貨物軽自動車運送事業者さんが最近増えてきています。そのような軽貨物自動車運送事業者さんの多くは、個人事業ではなく法人として事業を展開されております。

軽貨物運送会社の設立手続きの流れ

そこで、このページでは、会社を設立して、貨物軽自動車運送事業を経営するための許認可手続きについて解説をしていきます。

法人で貨物軽自動車運送事業を経営するためには、先に会社設立手続きを行い、その後に、貨物軽自動車運送事業の許認可手続きを行う流れになります。逆では手続きができないので注意が必要です。

会社の設立が先です。

1.会社設立手続き

会社の設立手続きは、本店所在地を管轄する法務局に、会社設立登記申請を行う方法で行います。株式会社を設立する際は、法務局へ登記申請を行う前に、公証役場にて定款認証手続きを行います。

会社設立手続きの際、会社名・本店所在地・事業目的・資本金・決算期・役員など、様々なことを決定しなければなりません。

本店所在地

本店所在地は営業所として物件を借りられる場合はその場所を本店として登記しても構いませんが、代表者の自宅を本店所在地とされる事業者さんが多いです。運送事業の本店所在地は営業所と同じ場所にしなければならないというルールはありません。

事業目的

次に事業目的ですが、軽貨物車を使った運送事業の場合、もっともシンプルに記載するのならば「貨物自動車運送事業」と記載されるのがよろしいかと思います。

将来的に一般貨物自動車運送事業の許可取得を目指す場合であれば、貨物自動車運送事業の中には一般貨物と軽貨物のそれぞれの事業が含まれておりますので、この記載をされることを私どもでは強くお勧めしています。

軽貨物車では運べない貨物を協力会社の一般貨物自動車運送事業者へ外注を出す場合は、【貨物自動車に関する第一種貨物利用運送事業】の登録が必要になります。ですので、貨物利用運送事業を将来的に展開予定でしたら、「貨物利用運送事業」と事業目的に入れておくのがよいでしょう。

さらに、将来的に倉庫を所有もしくは借りて、荷主と寄託契約を締結し保管料を収受して貨物の保管を行う予定があるのでしたら、倉庫業登録の際に「倉庫業」という事業目的の記載が求められます。「倉庫業」の事業目的も会社設立時に入れて置くのがよいでしょう。

資本金

最後に資本金に関してですが、現在の制度上は、株式会社であっても、合同会社であっても、資本金1円で会社を設立することができます。しかしながら、資本金1円での会社設立はおすすめできません。与信調査の場面では、資本金額も社会的信用力の指標になります。

資本金1円では、個人事業主よりも信用力を高めるために会社を設立しても、マイナス評価になることが想定されます。

資本金は、事業立ち上げ時に業務を支障なく行うための資金ですので、会社設立後は、事業運営のために自由に使うことが出来ます。一般的には、初期費用+運転資金の3ヶ月分が資本金の目安と言われています。

もし、この計算するのが面倒とお考えの方は、資本金は300万円にするのはいかがでしょうか。

資本金300万円で会社を設立して頂ければ、1期目の期中に貨物利用運送事業の登録申請を行う際に、登録取得のハードルである純資産額300万円以上あるという財産的基礎の要件をクリアーすることができます。

従って、私どもでは、資本金を300万円とすることをご提案しております。

2.貨物軽自動車運送事業経営届出書の提出

軽貨物運送に使用する軽貨物車には黒色のナンバーが付いています。この黒色のナンバーは、管轄の自動車検査登録事務所に行っても受け取ることができません。黒色のナンバーは、貨物軽自動車運送事業の経営届出書を提出していないと受け取ることができないからです。

貨物軽自動車運送事業経営届出書の提出先は、営業所を管轄する運輸支局になります。東京都内に営業所がある場合は、東京運輸支局が窓口になります。神奈川県内に営業所がある場合は、神奈川運輸支局が窓口になります。

貨物軽自動車運送事業経営届出書を提出する際には、下記の項目を確定しておかなければなりません。

  • 営業所の名称と所在地
  • 車庫の所在地と面積
  • 乗務員の休憩睡眠施設の所在地と面積
  • 運行管理の責任者
  • 事業に使用する車両
  • 料金表

車庫

貨物軽自動車運送事業に使用する車庫は、営業所に併設させるか、併設できない場合は、営業所から車庫までの直線距離が2キロメートル以内であることが求められます。また、事業を行う法人が車庫を使用する権利を持っているかも求められています。

使用する権利とは、所有しているか、もしくは、借りているかということです。農地として登録されている場所や、建物内の車庫の場合は、その建物が違法建築物でないことも要求されています。

事業に使用する車両

貨物軽自動車運送事業に使用する車両は、令和4年10月26日までは最大積載量の記載のある車両、いわゆる軽貨物車に限定されていました。

これが規制改革実施計画を踏まえて、令和4年10月27日より、軽乗用車の使用が可能となりました。軽貨物車の最大積載量は350㎏となっていますが、軽乗用車を貨物軽自動車運送事業に使用する場合の最大積載量はどのようになるのでしょうか。

軽乗用車を貨物軽自動車運送事業に使用する場合、積載貨物については次のような規定が定められています。

「積載できる貨物の重量は、乗車定員数から乗車人数を控除した数に55を乗じた重量(単位キログラム)以内とする。また、貨物の位置が極端に運転者室や客室の前方、後方又は片側に偏る積載をしないこと。」

つまり、軽乗用車に積載可能な重量は、(乗車定員-乗車人数)×55㎏となります。

例えば、乗車定員4名の軽乗用車に乗車するのは運転者1名の場合、積載可能な重量は(4名-1名)×55㎏=165㎏となります。これは軽貨物車の最大積載量350㎏と比較すると半分以下の積載量となります。軽乗用車を使用する場合は軽貨物車のように積載はできないため、軽貨物車の運行以上に過積載運行にならないように注意が必要と言えるでしょう。

運輸支局にて手続きを行う際は、下記の書類が必要になります。

  • 経営届出書
  • 料金表
  • 事業用自動車等連絡書
  • 軽貨物車の車検証(新車の場合は完成検査書)

貨物軽自動車運送事業の届出手続きをご依頼頂く事業者さんより、運行管理者と整備管理者の選任に関する事項をよくご質問頂くことが多いのでここで解説を入れておきます。

結論から申し上げると、貨物軽自動車運送事業の場合は運行管理者の選任は不要です。

一方で、整備管理者は、営業所に配置する軽貨物車が10台以上の場合は、整備管理者の選任が必要になります。逆の見方をすれば、営業所に配置する軽貨物車が9台までの営業所には、整備管理者の選任は不要です。

整備管理者の選任が必要になる営業所の場合、その営業所で整備管理者に選任できるのは以下のいずれかに該当する方です。

  1. 整備の管理を行おうとする自動車と同種類の自動車の点検若しくは整備又は整備の管理に関する2年以上の実務経験を有し、かつ、地方運輸局長が行う整備管理者選任前研修を修了した者であること
  2. 一級、二級または三級の自動車整備士技能検定に合格した者であること

上記1.の2年以上の実務経験を積まれた方を整備管理者として選任する場合、実務経験を立証するために、実務経験証明書に過去の勤務先より作成していただく必要があります。過去の勤務先を円満に退職していない場合は、この実務経験証明書を発行してもらえない場合がありますのでご注意ください。

また、整備管理者に選任した方が従業員の場合、その方が退職したら別の資格要件を満たす方を探さなければならないリスクがあります。

もし社長が上記のいずれかの整備管理者の資格要件に該当しているのであれば、まずは社長などの経営者が整備管理者になるのが、運営の安定性の観点から好ましいのではないでしょうか。

貨物軽自動車運送事業には運行管理者の選任義務はありませんが、乗務前に酒気帯びの有無や疾病、疲労などの有無、車両の点検などを確認する点呼を実施する必要があります。さらに、安全運行を行うために、運転者に対して適切な指導を実施し記録を残すことも行う必要があります。

さらに、将来的に一般貨物自動車運送事業の許可取得を目指されるのであれば、貨物軽自動車運送事業を経営しながら、運行管理者の有資格者の確保を目指した方が良いでしょう。ここでいう確保は有資格者の採用もありますが、ぜひ、経営陣が運行管理者試験にチャレンジして合格して頂くと、一般貨物自動車運送事業の運営がし易くなります。

3.事業用ナンバーの取得

運輸局にて経営届出書の提出が完了したら、事業用ナンバー(黒色のナンバー)の取得を、営業所を管轄する自動車検査登録事務所で行います。この際、運輸支局で受け取った事業自動車等連絡書が必要になります。

軽貨物自動車運送会社設立に関連する手続きとしては、上記の3つ以外に、税務署や自治体への届出手続きや、社会保険加入手続きなどが必要になってきます。

それでは、①法務局での会社設立手続き、②運輸支局での経営届出書の提出、③自動車検査登録事務所での自動車登録手続きの3つの手続きを行った場合の費用はどのくらいかかるのかを見ていきましょう。

設立する会社が株式会社か合同会社によって異なってきますので、仮に設立する会社の資本金を300万円とした場合の費用を確認していきましょう。

 株式会社の場合合同会社の場合
定款認証費用52,000円0円
登録免許税150,000円60,000円
履歴事項全部証明書(1通)600円600円
印鑑証明書(1通)450円450円
会社印鑑3本セット11,000円11,000円
司法書士費用(会社設立手続き代行)110,000円88,000円
行政書士費用(経営届出手続き代行)55,000円55,000円
資本金払込用の現金3,000,000円3,000,000円
合計3,478,050円3,215,050円

上記費用に加えて、ナンバープレート代が1台あたり1,500円前後必要になるほか、自動車登録手続き費用を行政書士に依頼した場合の代書費用が1台あたり数千円必要になります。

合同会社設立時は定款認証手続きが不要のため、株式会社と比較すると安価で会社設立手続きができますが、事務手続き費用だけでも330~350万円が必要になります。これに加えて、軽貨物車を調達する費用や事務所家賃や駐車場の賃料が必要になってきます。

軽貨物自動車運送会社を設立するためには、最低でもこの金額が必要になりますので、起業の際の自己資金の目安にして頂ければと思います。

4.貨物軽自動車運送事業が遵守しなければならない安全規制

「一般貨物自動車運送事業は行政処分制度があるので大変。貨物軽自動車運送事業はそのような制度がないから楽だ。」

という声を聞くことがあります。これは本当なのでしょうか。

貨物軽自動車運送事業であっても、行政処分制度が設けられています。これは貨物軽自動車運送事業は、貨物自動車運送事業の一つであるからです。貨物軽自動車運送事業の行政処分制度は、『貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について』という国土交通省自動車交通局からの通達に定められています。

従って、貨物軽自動車運送事業であっても、法令違反を行った場合は、行政処分を受けることがあります。

貨物軽自動車運送事業者は守らなければならないルールは、貨物自動車運送事業輸送安全規則に定められています。

主な安全規制がまとめられている資料が、貨物軽自動車運送事業に軽乗用車を使用可能になったタイミングで公表されましたのでご紹介いたします。

出典:国土交通省プレスリリース 貨物軽自動車運送事業における軽乗用車の使用について
出典:国土交通省プレスリリース 貨物軽自動車運送事業における軽乗用車の使用について

貨物軽自動車運送事業者が安全運行を行うために必要な法令遵守項目のうち、主なものについてわかりやすくまとめられている資料だと思いますのでぜひ活用ください。

貨物軽自動車運送事業者であっても、一般貨物自動車運送事業者と同様に、アルコールチェッカーを使用した乗務前・乗務後・中間点呼を対面で実施する義務があり、そして点呼結果を点呼記録簿へ記載し、その記録簿は1年間保存義務があります。

貨物軽自動車運送事業者だからといって、安全規制が全くないわけではないのでご注意ください。

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