旅行会社の設立:申請手続きから登録まで

一般的に旅行会社や旅行代理店と呼ばれる事業を行うためには、旅行業法に基づいた許認可の取得が必要になります。

「旅行業の登録」と呼ばれる手続きが必要になりますが、旅行会社の経営に必要な許認可は、その旅行会社が取扱う旅行業務によって、取得しなければならない許認可の種類に違いがあります。

私ども行政書士法人シグマは、この旅行業の登録手続きを専門的に取り扱っている行政書士事務所です。ご相談だけではなく、実際に当法人にて旅行業登録申請手続きをご依頼頂いた事業者様の中には、上場企業様、非上場の事業規模の大きい有名企業様、そして有名外資系企業様本体やそのグループ会社様もいくつもいらっしゃいます。

さて、ここからは旅行会社設立手続きの本題に入ります。

無駄なく旅行会社の設立手続きを進めるためには、私どもの経験上、

  1. 旅行事業にあたるのかの検討
  2. 取得すべき許認可の種類の検討
  3. 許認可取得条件の検討・調整
  4. 許認可取得手続きへ着手

この順番で旅行会社設立手続きを進めて頂くと、作業の手戻りがなく、円滑に手続きが進められると思います。

とはいえ、当法人のような旅行業登録手続き専門行政書士事務所に寄せられるご相談で多いのは、ご相談者様が検討されている事業が旅行業に該当するのか、それともしないのかというご相談と、旅行業に該当する場合は、どの種類の許認可を取得しなければならないのかというご相談になります。

予定する事業は旅行業に該当するか

まず、事業が旅行業に該当するのか、しないのかというご相談への回答ですが、次の3つの条件すべてに該当する場合は、旅行業に該当すると旅行業法に規定されています。

  1. 報酬を得ている
  2. 旅行業法第2条第1号から第9号に記載されている行為を行う
  3. それを事業として行っている

旅行業法第2条(定義)

この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。

一 旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス(以下「運送等サービス」という。)の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為

二 前号に掲げる行為に付随して、運送及び宿泊のサービス以外の旅行に関するサービス(以下「運送等関連サービス」という。)を旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等関連サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等関連サービスを提供する者との間で締結する行為

三 旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為

四 運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為

五 他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為

六 前三号に掲げる行為に付随して、旅行者のため、運送等関連サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為

七 第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、運送等関連サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等関連サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為

八 第一号及び第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、旅行者の案内、旅券の受給のための行政庁等に対する手続の代行その他旅行者の便宜となるサービスを提供する行為

九 旅行に関する相談に応ずる行為

どの種別の旅行業登録を行うべきか

旅行業の登録には、取扱う旅行業によって、取得する必要がある種別が異なります。そのため、これからはじめる事業が旅行業に該当する場合、次の6つ種別の中で、どちらの種別を取得する必要があるのかについて悩まれているご相談者さんが多いです。

  • 第1種旅行業登録
  • 第2種旅行業登録
  • 第3種旅行業登録
  • 地域限定旅行業登録
  • 旅行サービス手配業登録
  • 旅行業者代理業登録

この種別の差異は何かというと、登録種別によって取扱い可能な旅行業務によって異なるのです。

登録の種別 取扱可能な旅行業務
第1種旅行業 海外・国内の募集型企画旅行

海外・国内の受注型企画旅行

海外・国内の手配旅行

他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結

第2種旅行業 国内の募集型企画旅行

海外・国内の受注型企画旅行

海外・国内の手配旅行

他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結

第3種旅行業 営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の募集型企画旅行

海外・国内の受注型企画旅行

海外・国内の手配旅行

他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結

地域限定旅行業 営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の募集型企画旅行

営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の受注型企画旅行

営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の手配旅行

他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結

旅行サービス手配業 旅行業者の依頼を受けて、次のいずれかの手配業務

国内の運送・宿泊

国内の全国通訳案内士・地域通訳案内士以外の有償ガイド

国内の免税店に物品販売

※ランドオペレーター業務

旅行業者代理業 旅行業者から委託された業務

用語解説

募集型企画旅行:一般的にはパッケージツアーやパック旅行と呼ばれる旅行商品です。旅行会社があらかじめ、旅行の目的地及び日程、運送や宿泊などの旅行サービスの内容と旅行代金を定めた旅行に関する計画を作成し、パンフレットやインターネットなどで旅行者を募集して実施する旅行のことです。

受注型企画旅行:フルオーダーメイド型の旅行商品です。旅行者からの依頼を受けて、旅行会社が、旅行の目的地及び日程、運送や宿泊などの旅行サービスの内容と旅行代金を定めた旅行に関する計画を作成、提案し、実施する旅行のことです。

手配旅行:旅行会社が旅行者からの依頼を受けて、旅行者のために、運送や宿泊等旅行サービスの提供を受けることができるよう手配をする旅行のことです。

登録種別の検討

この6つある登録種別を検討する上で、最初に検討しなければならないことは、依頼者、つまりお客様は誰なのかということになります。

設立する旅行会社のお客様を、国内・海外の旅行会社を想定しており、日本国内の運送、宿泊、ガイド、免税店の手配といったランドオペレーター業務のみを行う場合は、旅行サービス手配業登録の取得をご検討ください。

一方で、お客様を旅行会社には限定せずに、旅行者(エンドユーザー)を想定している場合は、第1種、第2種、第3種、地域限定、旅行業者代理業登録の取得をご検討ください。

そして、他の旅行会社さんの1社専属代理店として旅行事業を行う場合は旅行業者代理業登録の取得を目指すことになり、それ以外の旅行事業を行う場合は、検討している旅行事業の内容によって登録種別が決まることになります。

各旅行業登録で行える事業内容

例えば、海外のパッケージツアー(募集型企画旅行)を自社で企画し販売を行いたい場合は、第1種旅行業登録を取得する必要があります。

また、催行地域を限定せずに、日本国内全域のパッケージツアーを自社で企画し販売を行いたい場合は、第2種旅行業登録の取得を目指すことになります。

国内の着地型旅行商品の企画・販売に限定した旅行事業を行う場合は地域限定旅行業登録を、国内・海外の受注型企画旅行や手配旅行を取り扱いたい場合や、旅行者からの依頼の他に、旅行会社から依頼を受けて旅行素材の手配を行うランドオペレーター業務を行いたい場合などは、第3種旅行業登録の取得が必要になります。

最も登録が多いのは第3種旅行業登録

日本国内で最も登録が多いのは第3種旅行業の登録を取得している旅行会社です。2018年5月1日時点で、日本国内には11,107社の旅行会社があり、そのうち5,816社が第3種旅行業登録を取得されています。日本国内の旅行会社のうち、実に半数以上(52.36%)が第3種旅行業登録を取得され、旅行事業を営まれています。

行政書士法人シグマのお客様でも、第3種旅行業の登録を取得されることが最も多いです。そして、第3種旅行業登録取得後に、事業規模拡大にあわせて、登録種別を第3種から第2種へ、もしくは第3種から第1種へと変更される旅行会社さんもいらっしゃいます。

地域限定旅行業は、登録取得のハードルが低いため、他の旅行業登録の種別と比較すると登録を取得しやすいのが魅力的な登録種別ではありますが、取扱可能な旅行業務が狭くなっています。

検討されている旅行業務が地域限定旅行業者が取扱可能な枠内に収まっていればよいのですが、事業内容を伺うとその枠内に収まっていないご相談者さんが多い印象を受けます。ですので、これから旅行業へ参入される方は、まずは、第3種旅行業登録の取得を検討されてみてはいかがでしょうか。

旅行業登録の条件

登録種別の検討が完了したら、次は、その種別の登録条件の確認に進みましょう。

旅行業の登録を取得するためには、法令等で定められている条件を満たす必要があります。この登録のための条件は、登録要件とも呼ばれ、取得する登録種別により異なっています。従って、先に登録種別が決まらないと、旅行事業をスタートするための条件が決まらないのが、旅行会社を経営するための許認可の特徴です。

一般的に許認可取得のための条件は、「人」「モノ」「お金」の3つの要素に整理してから検討すると、条件をもれなく検討することができるでしょう。

そこで、旅行業に必要な6つの種別の3つの要素をざっくり整理すると次の表のようになります。条件がある場合には○を、条件がない場合は×としています。

モノ お金
第1種旅行業
第2種旅行業
第3種旅行業
地域限定旅行業
旅行業者代理業 ×
旅行サービス手配業 ×

第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業の登録を取得するためには、「人」「モノ」「お金」の3つの要素をクリアーしなければならないのですが、一方で、旅行業者代理業と旅行サービス手配業の登録を取得するためには、「人」と「モノ」の2つの要素のみをクリアーすればよく、お金に関する条件は定められておりません。

「人」に関する条件

申請者が旅行業法第6条で定められている登録拒否事由に該当する場合は、申請をしても登録は拒否されるため、旅行業を経営することができません。

旅行業、旅行業者代理業、旅行サービス手配業の登録は、法人で取得されることが多いのですが、制度上は、個人事業主でも登録の取得は可能です。

申請者の考え方ですが、法人の場合は取締役や監査役といった役員が、個人事業主の場合は当該本人が、それぞれ旅行業法第6条に規定されている登録拒否事由に該当していないことが求められます。

さらに、営業所で選任する旅行業務取扱管理者も、登録拒否事由に該当していないことが求められます。つまり、法人の場合は役員と旅行業務取扱管理者が、個人事業主の場合は、当該個人と旅行業務取扱管理者が、それぞれ登録拒否事由に該当していないことが、「人」に関する一つ目の条件です。

旅行業法第6条(登録の拒否)

第十九条の規定により旅行業若しくは旅行業者代理業の登録を取り消され、又は第三十七条の規定により旅行サービス手配業の登録を取り消され、その取消しの日から五年を経過していない者(当該登録を取り消された者が法人である場合においては、当該取消しに係る聴聞の期日及び場所の公示の日前六十日以内に当該法人の役員であった者で、当該取消しの日から五年を経過していないものを含む。)

二 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過していない者

三 暴力団員等(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者をいう。第八号において同じ。)

四 申請前五年以内に旅行業務又は旅行サービス手配業務に関し不正な行為をした者

五 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は第七号のいずれかに該当するもの

六 心身の故障により旅行業若しくは旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

七 法人であって、その役員のうちに第一号から第四号まで又は前号のいずれかに該当する者があるもの

八 暴力団員等がその事業活動を支配する者

九 営業所ごとに第十一条の二の規定による旅行業務取扱管理者を確実に選任すると認められない者

十 旅行業を営もうとする者であって、当該事業を遂行するために必要と認められる第四条第一項第三号の業務の範囲の別ごとに国土交通省令で定める基準に適合する財産的基礎を有しないもの

十一 旅行業者代理業を営もうとする者であって、その代理する旅行業を営む者が二以上であるもの

例えば、旅行業法に違反して旅行業登録を取り消された法人の役員に就任されていた方は、取消の日から5年間は、旅行業登録申請予定の法人の役員や、旅行業務取扱管理者になることはできません。また、破産手続きの決定を受けて復権をしていない場合も同様です。

旅行業務取扱管理者の選任

「人」に関する2つ目の条件は、旅行業務取扱管理者の選任です。

旅行業務取扱管理者は、お客様との旅行取引に関する責任者です。以前は、旅行業務取扱主任者と呼ばれていました。

登録を取得するためには、1営業所につき1名以上の旅行業務取扱管理者の選任が求められます。旅行業務を取扱う従業員が10名以上になる営業所では、複数名の管理者の選任義務が生じます。

ここでの選任の意味は、常勤雇用を意味します。従って、旅行業務取扱管理者は役員である必要はなく、使用人(従業員)であれば選任することはできます。

しかし、勤務実態のない方を選任だけする、いわゆる名義貸しは認められません。他の旅行業者や他の営業所との兼任は原則できませんが、地域限定旅行業者に限り、以下の条件を満たしている場合は、一人の旅行業務取扱管理者が、自社で運営する、複数の営業所の管理者を兼任することができます。

  1. 営業所間の直線距離が40㎞以下である
  2. その営業所の取引額の合計が1億円以下の場合

旅行業務取扱管理者が兼任できるのは、地域限定旅行業で上記の条件を満たしている場合に限られます。従って、第1種、第2種、第3種、旅行業者代理業、旅行サービス手配業では、営業所間での兼任はすることができません。

旅行業務取扱管理者の常勤雇用

また、選任する旅行業務取扱管理者には、誰でも選任できるわけではありません。旅行業務取扱管理者の資格を有する方を常勤雇用することが求められます。

旅行業務取扱管理者の資格は、「総合旅行業務取扱管理者試験合格者」「国内旅行業務取扱試験合格者」「地域限定旅行業務取扱管理者試験合格者」そして、「旅行サービス手配業務取扱管理者研修修了者」です。

ここで注意しなければならないのが、それぞれの有資格者が、すべての旅行会社の営業所で選任できるわけではない点です。登録種別や取扱業務によって細かい違いがありますので、それその違いを表にまとめてみました。

第1種、第2種、第3種、旅行業者代理業 地域限定

旅行業

旅行サービス

手配業

海外旅行・国内旅行 国内旅行のみ
総合旅行業務取扱管理者試験

合格者

国内旅行業務取扱管理者試験

合格者

×
地域限定旅行業取扱管理者試験

合格者

× × ×
旅行サービス手配業務取扱管理者

研修修了者

× × ×

第1種、第2種、第3種、旅行業者代理業者は、選任する営業所での取扱業務が、海外・国内の両方なのか、それとも国内旅行のみなのかによって、選任できる合格者の資格が異なります。

海外旅行を取り扱う営業所に場合は、「総合」の合格者のみに限定されます。一方で、国内旅行のみを取扱場合は、「総合」「国内」のいずれかの合格者を選任することができます。

「地域限定」の合格者と、旅行サービス手配業務取扱管理者研修修了者は選任することができません。地域限定旅行業者は「総合」「国内」「地域限定」の合格者を旅行業務取扱管理者に選任することができます。

旅行サービス手配業者は、「総合」「国内」の合格者もしくは、旅行サービス手配業務取扱管理者研修の修了者を旅行業務取扱管理者として選任することができます。

それぞれの資格については、資格名をネット上で検索すると、資格の取得方法を確認することができますので、これから資格取得を検討されている方が、ネット上で検索してみてください。

5年ごとの旅行業務取扱管理者定期研修

「総合」「国内」「地域限定」旅行業取扱管理者試験合格者を選任する場合、選任する旅行業務取扱管理者は、5年ごとに、旅行業務取扱管理者定期研修を受講していることが求められるようになりました。

旅行業務取扱管理者定期研修は、旅行業協会が実施する、旅行業務に関する法令、旅程管理その他の旅行業務取扱管理者の職務に関し必要な知識及び能力の向上を図るための研修です。但し、選任日から5年以内の試験合格者に限っては、選任に際しての受講義務は免除されます。

とはいえ、定期研修の受講義務がある方が、登録申請前に受講できない場合は特例があります。

選任予定の合格者が5年以内に定期研修を受講していない場合は、旅行業の登録取得後に実施する定期研修を受講し、受講後に観光庁や都道府県に受講証を届出る旨の誓約書を提出することで、定期研修受講義務のある方であっても、受講前に、旅行業務取扱管理者に選任することができます。

「モノ」に関する条件

「モノ」に関する条件のモノは、営業所です。

旅行業務を行う営業所の確保が必要になります。営業所の広さや設備の要件は法令で定められておりませんが、旅行会社の実在性が担保できる営業所が必要になります。

第一種、第二種、第三種、地域限定及び旅行業者代理業者の営業所には、登録票と取扱料金表の掲示と、旅行業約款の掲示もしくは備え置きを行わなければならないと、法律で定められています。

旅行サービス手配業者には、登録票や料金表の掲示義務や、旅行業約款の掲示もしくは備え置きの義務は課されておりませんが、選任した旅行業務取扱管理者を1営業所につき1人以上の選任義務があるため、その選任した旅行業務取扱管理者が旅行業務を行う場所を確保するという意味でも、実態のある営業所を確保する必要があると言えるでしょう。

ちなみに、手続き上は、観光庁や、北海道、宮城県、愛知県、京都府、大阪府、福岡県が登録行政庁である場合は使用権限を証する書類の提出は求められておりません。

それに対して東京都、神奈川県、埼玉県が登録行政庁の場合は、使用権限を証明する書類として、自社所有物件の場合は建物登記簿謄本を、賃貸物件の賃貸借契約書の写しを提出する必要があります。

自己所有物件の場合

自己所有物件の場合、オフィスビルの1室を旅行業の営業所として使用する場合は問題になる点はないのですが、所有している分譲マンションの一部屋を旅行会社の営業所として使用する場合は、当該マンションの管理規約違反にならないよう注意が必要です。

一般的なマンションの管理規約は使用目的を住居に限定されていますので、旅行業の営業所として使用されたい区分所有物件が、事務所として使用可否を管理組合に事前に確認が必要でしょう。

賃貸物件の場合

また賃貸物件の場合は、賃借人は旅行業務を行う申請人名義であることが求められます。旅行業務を法人で行う場合、賃借人が社長個人名義の契約書の写しにて登録申請手続きを進めようとする方がいらっしゃいますが、社長個人と法人とは別人格として扱いますので、営業所を社長個人名義で借り受けている場合は、登録の申請前に、法人名義に契約書変更する手続きを行う必要があります。他社が賃貸している物件に同居する場合は、他社と申請法人との間の転貸借契約書の他に、他社が物件所有者との間で締結した原賃貸借契約書と、物件所有者の同居承諾書の3点が必要になります。同居承諾書を物件所有者から取得するのに時間を要する場合がありますので、登録申請手続きを進めることになりましたら、早めに依頼をされた方がよいでしょう。

昨今、店舗を構えずにインターネット上だけで旅行取引を行う旅行会社さんが増えてきています。このような旅行会社はOTA(Online Travel Agent)と呼ばれていますが、OTAであっても、日本の旅行業法に規制を受ける事業者では、営業所の確保が必要になります。OTAは営業所の確保が不要だと思われている方が多いので、この点は注意が必要です。。

「お金」関する条件

第1種、第2種、第3種、地域限定旅行業は、「お金」に関する条件を満たす必要があります。一方で、旅行業者代理業と旅行サービス手配業は、お金に関する条件は定められておりません。

旅行業法では、「お金」に関する条件は、財産的基礎と規定されており、登録種別ごとに定められている金額以上の財務状況であることが登録の条件となっています。

この金額は、基準資産額といいますが、基準資産額の算出には、申請前直近の事業年度における確定決算書の数値を使用して、次の計算式に数値をあてはめて計算します。

基準資産額={(資産の総額)-(創業費その他の繰延資産)-(営業権)-(不良債権)}-(負債の総額)-(所要の営業保証金又は弁済業務保証金分担金)

基準資産額の算定に必要な数値は、決算報告書の一部の貸借対照表の数値を使用しますので、基準資産額算定の際は、直近事業年度分の決算書をお手元にご準備ください。

損益ではなく当該法人の財政状態が条件

ご相談にお越しになる事業者さんの中には、赤字だから基準資産額を満たしていないとお考えの方もいらっしゃいますが、それは違います。

黒字・赤字というのは損益計算上の数値であり、損益に関しては、旅行業登録の条件にはなっていません。旅行業登録では、損益ではなく、当該法人の財政状態が条件になっているのです。

従って、会社の財務状況が記載されている貸借対照表の数値を使って基準資産額を算定するのですが、計算式の最後に引くこととなる営業保証金・弁済業務保証金分担金の額は、決算報告書のどこを参照しても記載されておりません。

営業保証金・弁済業務保証金分担金の額は、登録後1年間の旅行者との取引見込額を基に算定することになります。

登録種別 営業保証金(最低額) 弁済業務保証金分担金(最低額)
第1種旅行業 7,000万円 1,400万円
第2種旅行業 1,100万円 220万円
第3種旅行業 300万円 60万円
地域限定旅行業 15万円 3万円
旅行業者代理業 不要 不要
旅行サービス手配業 不要 不要

上記の表は、登録種別ごとの、営業保証金と弁済業務保証金分担金の最低額となります。

1年間の取引額によっては、営業保証金や弁済業務保証金の額は増額になります。

例えば、第3種旅行業の場合は、上記の金額は年間取引額が2億円未満の場合の額となります。もし、旅行者との年間取引額が2億円以上4億円未満の場合になる場合は、営業保証金は450万円、弁済業務保証金分担金は90万円と増額になります。

営業保証金と弁済業務保証金分担金の違い

営業保証金と弁済業務保証金分担金の違いは、旅行業協会に入会しているのか、していないかによって区別されます。

旅行業務は、他の業種と比べて、比較的小さな投資額でスタートすることができます。一方で、旅行者との取引額は小さい額ではありません。そこで、消費者である旅行者の保護を図るために、旅行業法では、旅行業者に一定の金額のデポジット(営業保証金)を法務局に供託する制度が設けられています。

また、旅行業協会が実施する弁済業務保証金制度は、旅行業協会へ入会して保証社員の資格を得ると、本来の営業保証金の5分の1に当たる額の弁済業務保証金分担金を納付し、旅行業協会がこの分担金を一元的に弁済業務保証金として法務局へ供託します。

これによって、旅行業協会へ加盟する旅行業者間で本来の営業保証金に相当する額を連帯保証させるという性質があり、その結果、旅行業者が本来供託義務を負っている営業保証金の負担を軽減するメリットを受けることができます。

第1種、第2種旅行業登録では旅行業協会への入会を検討

従って、旅行業協会へ入会するのか、入会しないのかは旅行会社の任意です。とはいえ、入会すると営業保証金額を5分の1にすることができるという財務上の利点があるため、第1種旅行業、第2種旅行業の登録を取得されているほとんどの事業者さんは、旅行業協会への入会を選択されています。

旅行業協会の種類

旅行業協会へ入会する場合は、2つある旅行業協会からどちらかを選ぶ必要があります。

一つは日本旅行業協会(JATA)、もう一つは全国旅行業協会(ANTA)です。

旅行業協会は、旅行業法の規定に基づき次の5つの業務や指定研修の実施をしています。

一 旅行者及び旅行に関するサービスを提供する者からの旅行業者等又は旅行サービス手配業者の取り扱った旅行業務又は旅行サービス手配業務に対する苦情の解決

二 旅行業務又は旅行サービス手配業務の取扱いに従事する者に対する研修

三 旅行業務に関し社員である旅行業者又は当該旅行業者を所属旅行業者とする旅行業者代理業者と取引をした旅行者に対しその取引によって生じた債権に関し弁済をする業務

四 旅行業務又は旅行サービス手配業務の適切な運営を確保するための旅行業者等又は旅行サービス手配業者に対する指導

五 旅行業務及び旅行サービス手配業務に関する取引の公正の確保又は旅行業、旅行業者代理業及び旅行サービス手配業の健全な発達を図るための調査、研究及び広報

従って、どちらかの協会へ入会しても、営業保証金の額を5分の1に圧縮するというメリットは受けることができますが、協会毎に入会金・年会費の額が違い、入会手続きの方法も異なります。

弊法人には、「どちらに入会した方が良いですか?」というご質問を頂くことが多いのですが、それは、旅行会社さんの事業規模や旅行業務などによって異なってきますので、一概には言うことはできません。

私どもでは、事業者さんのそれぞれの状況を伺ってから、個別具体的なコンサルティングを行っております。

「人」「モノ」「お金」以外の条件

ここまで、旅行会社を設立するための「人」「モノ」「お金」の3つの要素を確認してきましたが、この3つに分類できない条件があります。

事業目的の条件

旅行会社の許認可申請手続きには、会社登記簿謄本と定款の写しが必要になりますが、それぞれの事業目的の記載方法にもルールがあります。

第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業の場合

「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業

旅行業者代理業の場合

「旅行業者代理業」又は「旅行業法に基づく旅行業者代理業」

旅行サービス手配業の場合

「旅行サービス手配業」又は「旅行業法に基づく旅行サービス手配業」

このように登録種別によって書き方が分かれていますので、会社設立手続きの際や、目的変更手続きを進められる際には、正しい表記で事業目的の記載をお願い致します。

事業目的を、「旅行会社の経営」や「旅行代理店業」とされている事業目的とされている会社様もお見受けしますので、ご注意ください。

商号の条件

旅行業務の主たる営業所を東京都・埼玉県とされる事業者さんは、既存の旅行業者・旅行業者代理業・旅行サービス手配業との類似商号を避ける必要があります。

そこで、旅行会社設立手続きに着手されたらはじめに、類似商号の照会を申請先の行政機関に対して行った方がよいでしょう。

登録種別の検討と登録条件が整ったら、いよいよ営業開始に向けて、旅行業登録申請手続きに着手することになります。

まず審査を担当する行政機関は、第1種旅行業は観光庁が、第2種・第3種・地域限定旅行業、旅行業者代理業、旅行サービス手配業は主たる営業所の所在地の都道府県が行うことになります。

申請書類の提出先は主たる営業所の所在地が基準となり、例えば、東京都内に主たる営業所を置く場合は、第1種旅行業の場合は関東運輸局、第2種・第3種・地域限定旅行業、旅行業者代理業、旅行サービス手配業は東京都庁が、申請書の提出窓口となります。

営業開始までの流れは、私どもが過去の多くの旅行会社設立手続きをお手伝い経験値から、Aパターン(旅行業協会へ入会しない場合)とBパターン(旅行業協会へ入会する場合)の2つに分けることができます。

Aパターン:旅行業協会へ入会しない旅行会社の設立手続きの流れ

設立資金に余裕がある第3種旅行業と、地域限定旅行業、旅行業者代理業、旅行サービス手配業がこちらに該当いたします。

  1. 提出書類の収集・作成
  2. 旅行業登録申請
  3. 登録行政庁での審査
  4. 登録通知書の受領
  5. 営業保証金の供託 ※旅行業者代理業、旅行サービス手配業は不要
  6. 営業保証金供託済届出書の提出 ※旅行業者代理業、旅行サービス手配業は不要
  7. 営業開始

Bパターン:旅行業協会へ入会する旅行会社設立手続きの流れ

第1種旅行業、第2種旅行業、旅行業協会への入会にメリットがあると考えられている第3種旅行業がこちらに該当いたします。

  1. 提出書類の収集・作成
  2. 旅行業協会へ入会書類の提出
  3. 旅行業協会の審査
  4. 入会承諾書(確認書)の受領
  5. 旅行業登録申請
  6. 登録行政庁での審査
  7. 登録通知書の受領
  8. 弁済業務保証金分担金、協会入会金・年会費の納付
  9. 弁済業務保証金分担金納付済届出書の提出
  10. 営業開始

登録行政庁での審査期間ですが、申請先の行政機関(登録行政庁)によって異なっています。例えば、標準的な審査期間は、観光庁の場合は60日、東京都の場合は30~40日、神奈川県の場合は14日となっています。

旅行業登録の申請手続きに必要な書類

また、旅行業の登録申請手続きに必要な書類は、取得した登録種別と申請書類を審査する登録行政庁によって違いがあります。例えば、主たる営業所を東京都内に置く、第3種旅行業の登録申請の場合を具体例に出すと、下記の書類が必要になります。

  1. 新規登録申請書
  2. 定款の写し
  3. 履歴事項全部証明書
  4. 取締役・監査役の宣誓書
  5. 旅行業務に係る事業の計画
  6. 旅行業務に係る組織の概要

※旅行業務を取扱う部署、旅行業務関連部署の組織図、旅行業務取扱管理者の氏名を記載

  1. 直近決算期の法人税確定申告書及びその添付書類の写し

※最初の決算期を迎えていない新設法人の場合は、「開始貸借対照表」を提出

  1. 旅行業務取扱管理者選任一覧表
  2. 旅行業務取扱管理者の合格証の写し
  3. 旅行業務取扱管理者の定期研修修了証の写し

※定期研修未受講の場合は、「誓約書」を提出

  1. 旅行業務取扱管理者の履歴書
  2. 旅行業務取扱管理者の宣誓書
  3. 営業所の使用権限を証する書類

※賃貸物件の場合は「賃貸借契約書の写し」を、所有物件は「建物登記簿謄本」を提出

  1. 事故処理体制の説明書

※統括責任者・渉外担当責任者・旅客家族担当責任者を記載

  1. 標準旅行業約款
  2. 旅行業協会が発行した入会承諾書(確認書)

※旅行業協会へ入会する場合

上記の書類は、東京都が登録行政庁の場合の必要書類になります。

申請する都道府県によって必要な書類は異なる

例えば、神奈川県が登録行政庁の場合は、「営業所の案内図(地図)」や「建物外観写真」の提出が求められます。

千葉県が登録行政庁の場合、旅行会社の代表取締役と旅行業務取扱管理者が外国人の場合は、「在留カード」「特別永住証明書」の提出が求められます。

申請先によって提出が求められる書類が異なってきますので、申請先が決まりましたら、事前に確認された方がよいでしょう。

観光庁が窓口となる第1種旅行業登録の手続き

また、観光庁が登録行政庁となる第1種旅行業の登録申請手続きは、手続きの進め方が異なります。

第1種旅行業登録を取得される事業者さんは、おおかた日本旅行業協会(JATA)へ入会されるため、申請パターンは前述のBパターンに該当しますが、旅行業協会から入会申請書類の動き方が特殊です。

JATAより入会確認書を受領したら、まずは、申請書類を観光庁へ郵送して申請前のヒアリングを受ける準備を進めます。

観光庁では郵送で送付された申請書類を確認し、不備があれば修正指示が行われます。不備の補正が完了してから、申請前のヒアリングが実施されます。

このヒアリングは、霞が関にある観光庁で行われるため、申請者が観光庁を訪問する必要があります。このヒアリングが問題なく完了すると申請書類は一旦、申請者に返却されますので、主たる営業所を管轄する地方運輸局(東京都の場合は、関東運輸局)の旅行業担当窓口へ提出し、地方運輸局から観光庁へ申請書類が転送され、審査が進められます。申請書の郵送申請から登録通知書受領までの流れをフローにしたのが、下記のものです。

(JATAより入会確認書を受領)

  1. 観光庁へ申請書類一式を郵送にて送付(仮申請)
  2. 観光庁にて申請書類の確認)
  3. 申請前のヒアリング
  4. 主たる営業所を管轄する地方運輸局へ申請書類の提出(本申請)
  5. 観光庁にて審査
  6. 主たる営業所を管轄する地方運輸局より登録通知書の受領

(JATAへ弁済業務保証金分担金、入会金、年会費を納付)

終わりに

このページの冒頭で、無駄なく旅行会社の設立手続きを進めるためには、次の順番で進めると、無駄なく手続きを進めることができるとお伝えいたしました。

  1. 旅行事業にあたるのかの検討
  2. 取得すべき許認可の種類の検討
  3. 許認可取得条件の検討・調整
  4. 許認可取得手続きへ着手

昨今は、異業種から旅行事業への参入が増加しているため、旅行業界未経験の事業者さんが①から④のステップを進めることはなかなか難しいと思います。

また、旅行会社に勤務経験をある方が内部でいらしても、法務部や管理部などの旅行業登録を申請・管理していた部署に所属された方でないと、旅行会社の立上げ方法はご存知ではないと思います。

旅行会社設立手続きを支援

日本旅行業協会(JATA)賛助会員でもある行政書士法人シグマでは、旅行業登録申請手続きの代行サービスを提供中です。

代行内容は、単なる申請書類の代書業務には留まらず、登録条件充足のためのコンサルティングや、登録行政庁との登録条件に関する事前相談、登録旅行業協会・登録行政庁で実施されるヒアリングへ同席を行うことで、依頼者さんの時間的・精神的な負担を減らすための許認可法務サービスを提供しております。

登録条件の調査
登録行政庁の事前相談の代行
提出書類の収集と作成
申請書の提出とヒアリングの際の同席
登録通知書の受領代行
営業保証金の供託 ×(司法書士業務のため代行をご希望の方には司法書士事務所を紹介いたします)
営業保証金(弁済業務保証金分担金)納付完了の届出書類の提出代行
営業開始後の許認可法務の相談 △(しぐま365にて提供可能です)

また、旅行事業開始にあわせて、新会社を設立される方には、設立登記申請手続きに対応する司法書士事務所をご紹介する方法で支援しております。

外国法人が設立法人の発起人になるなどの特殊なケースな場合は、渉外登記を得意とする司法書士事務所さんをご紹介することも可能です。

料金

業務内容 報酬額(税込)
第1種旅行業 新規登録申請 385,000円~
第2種旅行業 新規登録申請 231,000円~
第3種旅行業 新規登録申請 231,000円~
地域限定旅行業 新規登録申請 231,000円~
旅行業者代理業 新規登録申請 176,000円~
旅行サービス手配業 新規登録申請 176,000円~

なお、登録行政庁へ納付する登録免許税・登録手数料は、別途必要になります。この費用は登録行政庁によって異なりますが、例えば、主たる営業所が東京都内にある申請者さんの費用は下記のとおりです。

第1種旅行業の場合 90,000円(新規)
第2種、第3種、地域限定旅行業の場合 90,000円(新規)
旅行業者代理業、旅行サービス手配業の場合 15,000円(新規)

旅行会社設立手続きについて初回のご相談の際は、当法人の担当者より下記の4つの項目についてお話を伺わせて頂きます。

ご相談頂く前に事前にご検討頂いた方が、よりスムーズに、そして具体的に、ご相談を承ることが可能です。

  • 主たる営業所を置く都道府県名
  • 旅行事業の内容
  • 旅行事業の開業希望時期
  • 旅行業務取扱管理者の確保状況

※「このビジネスモデルは旅行業に該当しますか?」「旅行業の許認可必要ですか?」といった旅行業登録の要否、旅行業法の解釈に関するご相談は、ご相談者様の事業内容を正確にヒアリングしてからでないと正確な判断をすることができません。

従いまして、メールもしくは電話にてお問い合わせ頂いてもその場では回答は致しかねます。なお、当法人では、旅行業法の解釈に関するご相談は、法令調査業務として有料業務として承っております。

法令調査業務をご希望のお客様は、メールもしくはお電話にて、ご面談日のご予約をお願い致します。

法令調査業務の料金

業務内容 報酬額(税込)
旅行業の法令調査業務 33,000円(税込)/60分

以降30分毎に11,000円(税抜)

※弊法人の他のサービス(登録申請手続きの代行など)をご契約いただいた場合には、当該サービスの報酬から相談料を値引きしております。

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