【法改正情報】2024年改正:トラック運送事業の持続的な成長を目指して

トラックドライバーの時間外労働の上限規定(年960時間)が2024年4月から適用されることにより、トラック運送事業では、深刻な労働力不足に陥ることが予想されてきました。政府はこの「2024年問題」に対応するため、近年、様々な施策を打ち出しています。

日本国内の貨物輸送は、その9割が自動車によって支えられているため、トラックドライバーの労働力不足は、輸送力の低下に直結します。

物流の停滞を最小限にするためには、ドライバーを確保するとともに、物流のプロセス全体を効率化していかなければなりません。

物流の「2024年問題」を乗り越えるためには、まず、トラック運送事業を魅力ある産業にすることで、人材を確保することが必要ですが、そのためには労働に見合った賃金が支払われなければなりませんし、労働環境の改善も不可欠です。当然、安全面の配慮も重要でしょう。

また、物流の効率化を進めていくためには、トラック運送事業者のみの取り組みでは不十分で、荷待ち時間・荷役時間の削減や積載率の向上を図るには、荷主(発荷主・着荷主)への要請・規制を含めた対策を講じなければならないでしょう。

このような状況を受けて、政府は、2024年2月13日に「物流業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」を閣議決定しました。この法律案が成立し、施行されるようになると、いったいどのような変化が生じるのでしょうか。

この法改正は、主にトラック運送事業の元請事業者や荷主事業者に対し、取引について新たな規制が設けられ、負担が増える内容となっています。しかし、この負担増は、トラック運送事業が今後も持続的に成長していくための「投資」となるのではないかと考えられます。

物流の「2024年問題」に対応するために

今回の法改正の背景にあるのは、何といってもトラック運送事業における時間外労働規制の見直しです。

「働き方改革関連法」に基づき、トラックドライバーの時間外労働についても、2024年4月より、年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用されるのは多くの方がご存じのことと思います。

また、時間外労働の上限規制の適用と同時に、厚生労働省がトラックドライバーの拘束時間を定めた「改善基準告示」によって、ドライバーの拘束時間の規制が次のように強化されます。これは、長時間労働・過重労働の実態にあるドライバーの健康の確保のためのものです。

現行 見直し後
1年の拘束時間 3,516時間 原則:3,300時間
1か月の拘束時間 原則:293時間

 

原則:284時間

最大:310時間

(1年の拘束時間が3,400時間を超えない範囲で年6回まで)

1日の休息時間 継続8時間 継続11時間を基本とし、9時間下限

労働時間などの見直しにより、トラックドライバーの労働環境の改善は一定程度達成される見込みです。しかし、一方で、国民生活や経済を支える重要な社会インフラである物流への影響は甚大になるものと試算されています。

2022年11月の試算によれば、具体的な対応を講じなければ、2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)不足し、その後も対応を講じない場合には、2030年には約34%(9億トン相当)不足するとされています。(持続可能な物流の実現に向けた検討会(第3回)の資料より)

法改正に至るまでの政府の取り組み

物流の停滞を避けるためには、トラックドライバーの処遇改善を図り、人材不足を解消することが必要です。また、荷待ち時間・荷役時間の削減などを通して、物流の効率化をいっそう進めていかなければなりません。

ご存じのとおり、物流のプロセスでは、発荷主企業と着荷主企業との間の契約で商品(貨物)の内容や納品時期が決定され、これを前提として、発荷主企業と運送事業者の間で運送契約が結ばれます。そのため、運送事業者が単独で行う物流の効率化にはおのずと限界があります。

そのため、物流という重要な社会インフラを支えるためには、荷主企業や一般消費者を含めた物流の構造全体にメスを入れなければなりません。特に、トラック運送事業の元請事業者や荷主企業の経営者層の意識改革が求められます。

1.改正貨物事業者運送事業法に基づく取り組み

平成30年に議員立法により成立した「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」をもとに、国土交通省は、荷主や元請事業者への行政指導を強化するとともに、標準的な運賃の告示制度を導入しました。

この改正貨物自動車運送事業法は、当初は、時間外労働規制の適用まで(2024年3月まで)の時限措置でしたが、2023年に「当分の間」の措置とする法改正が行われ、取り組みの期限が延長されています。

荷主への指導強化の具体例としては、2023年に「トラックGメン」を発足させたことが挙げられます。「トラックGメン」はトラック運送事業者へ直接電話をかけるなど、プッシュ型で荷主の違反行為の情報を収集し、その情報をもとに荷主への是正指導を行っています。

また、「トラックGメン」は、荷主企業を訪問し、荷待ちの発生状況などを調査する活動も実施しています。長時間の荷待ちはトラックドライバーの過重労働の要因となりますし、物流の効率化を妨げる要因ともなるからです。

「標準的運賃」の制度は、トラック運送事業者が自社の適正な運賃を算出し、荷主との運賃交渉に臨むにあたっての参考指標として創設されたもので、2020年4月に告示されています。トラックドライバーの労働条件を改善するとともに、持続的に事業を運営するためのツールとして活用されることが期待されています。

2.物流革新に向けた政策パッケージ

今回の閣議決定・法案提出に先立って、政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定しました。この政策パッケージでは、

  1. 商慣行の見直し
  2. 物流の効率化
  3. 荷主・消費者の行動変容

についての抜本的・総合的な対策がまとめられています。

トラック運送事業者間の取引関係では、多重下請関係が存在しているため、実際に貨物を運んでいる事業者(実運送事業者)が適正な運賃を受け取ることが難しいという現状があります。これを改善するためには、取引関係を「見える化」することが第一歩となります。

また、貨物の輸送先でトラックドライバーが契約にない荷役作業や陳列作業を指示されたり、長時間の荷卸し待ちを求められたりするケースも見られます。これらの原因としては、書面化された契約書が取り交わされていないことが考えられます。

物流の効率化を進め、下請事業者のドライバーが労働に見合った対価を受け取るためには、荷主企業、トラック運送事業者双方において、非効率な商慣行を見直し、業務を効率化していく必要があります。そのためには、一般消費者の行動の変容も重要になります。

以上のような観点を踏まえ、「物流革新に向けた政策パッケージ」には、その目的を達成するために法制化すべき事項が明らかにされています。今回の法改正(規制強化)は、この政策パッケージを下敷きとしたものだともいえるでしょう。

貨物自動車運送事業法及び物流総合効率化法の一部改正

それでは、2024年度に成立が見込まれる法改正案について、その内容を解説していきます。今回の法改正は、

  1. トラック事業者の取引に対する規制
  2. 軽トラック事業者に対する規制
  3. 荷主・物流事業者に対する規制

の3つに分類することができます。

1、2については、貨物自動車運送事業法の一部改正、3については、物流業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法)の一部改正となります。

トラック運送事業者の取引に関する規制的措置

【元請の運送事業者に対して、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成が義務づけられます。】

トラック運送事業の実運送事業者が適正な運賃を受け取る前提として、元請事業者が、実際に貨物を運んでいる事業者がどこなのか、その事業者は何次請けなのか(下請の次数)を把握したうえで、荷主に対して適正に価格転嫁された運賃を要求する必要があります。

実運送体制管理簿は、元請事業者が荷主ごとに、運送区間、貨物の内容、実運送事業者の名称、請負階層(下請次数)などを記載する帳票になります。これを作成することによって、多重下請構造が可視化されることになります。

国土交通省が例示している実運送体制管理簿は次の図のとおりですが、様式は特に決まっていません。配車表を活用することも可能であるなど、事業者の負担がなるべく小さくなるような配慮がなされています。

実運送体制管理簿のイメージ

(国土交通省が作成した資料より引用)


【荷主・トラック運送事業者・利用運送事業者に対し、運送契約の締結に対して、提供する役務の内容やその対価などについて記載した書面の交付が義務付けられます。】

契約内容が書面によって「見える化」されることは、トラックドライバーの過重労働を抑制する効果があります。また、実運送事業者の運送業務以外の役務に対しての対価が明確になるため、経営状況の改善にもつながるものと考えられます。

荷待ちや荷役等の対価、燃料サーチャージなどの基準価格などは、「標準的運賃」の中で定められています。


【他の事業者の運送の利用(下請に出す行為)の適正化について努力義務を課すとともに、一定以上の事業者に対して、適正化に対する管理規定の作成、責任者の選任が義務づけられます。】

この適正化についての管理規定の作成や責任者の選任は、いわゆる「水屋」や「マッチングサイト」を使って下請けに出す行為を行う場合にも努力義務が課され、監査やトラックGメンによるチェックの対象となります。下請け利用の際の安全性と公正性を高め、業界全体の質の担保につなげるねらいがあります。


【軽トラック運送事業者に対し、必要な法令等の知識を担保するための管理者選任と講習受講、国土交通大臣への事故報告が義務づけられます。】

軽トラック運送事業では、最近6年の間に、死亡・重傷事故件数が倍増しているという報告があります。ドライバーの安全の確保が早急に求められています。また、国土交通省HPにおける公表対象に、軽トラック事業者に係る事故報告や安全確保命令に対する情報などが掲載されるようになります。

荷主・物流事業者に対する規制的措置

荷主・物流事業者間の非効率的な商習慣を見直し、荷待ち・荷役時間の削減や積載率の向上などを図るため、法律の名称が「物資の流通の効率化に関する法律」に変わり、以下のような規制的措置が導入されることになります。


【荷主(発荷主・着荷主)・物流事業者に対し、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、当該措置について国が判断基準を策定します。そして、この取り組みの状況について、国が判断基準に基づいて指導・助言、調査・公表を実施します。】

取り組むべき措置や判断基準の例として、国は次のようなものを示しています。

取り組むべき措置 判断基準(取り組みの例)
荷待ち時間の短縮 適切な貨物の受け取り、引渡し日時の指示、予約システムの導入等
荷役時間の短縮 パレット等の活用・標準化、入出庫の効率化に対する資機材の配置、荷積み・荷卸し施設の改善等
積載率の向上 余裕を持ったリードタイムの設定、運送先の集約等

【荷主・物流事業者のうち、一定規模以上のものを特定事業者として指定し、中長期計画の作成定期報告などを義務づけ、取り組みの実施状況が不十分の場合、勧告・命令を実施します。】

【一定規模以上の荷主には、物流統括管理者の選任が義務づけられます。】

荷主となる大企業の役員の方々は、物流の現場の実情について、あまり関心がないというケースが多いと言われています。実際に、「トラックGメン」による指摘を受けてから、トラック運送事業者の抱える困難に気がつき、対応が変化したという報告があります。

物流統括管理者が選任されることにより、荷主企業の経営者層の意識改革が進められ、これが物流の効率化やトラックドライバーの処遇改善につながることが期待されています。

まとめ

トラック運送事業は、多重下請構造から成り立っており、下請事業者は荷主や元請事業者にものを言うのが難しい体質があります。しかしながら、「2024年問題」を切り抜け、業界全体が持続的に成長するためには、この体質を変えていく必要があります。

改正される貨物自動車運送事業法の下、実運送事業者(下請事業者)のトラックドライバーの処遇が改善され、物流プロセスの効率化が図られ、トラック運送事業全体が魅力あるものになっていくことが望まれています。

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