夏季の車両故障・車両火災にどう備えるか──データで見る実態と、運送事業者に求められる法令上の対応

毎年、盆前後になると「車両トラブルが増える」という声を運送事業者の皆さまから伺います。実感としてはよく語られる話ですが、では実際のところ、夏季の車両故障や車両火災はどの程度増えているのでしょうか。そして、それは事業者にとって単なる「整備の問題」で済むものなのでしょうか。

本稿では、公表されている統計で確認できる範囲の事実を整理したうえで、事業用自動車を使用する事業者に生じる法令上の義務と、実務として取り得る備えを解説します。


1. 故障は、夏に明確に増える

まず、データで裏づけが取れるのは「故障」のほうです。

JAF(日本自動車連盟)が公表しているロードサービス救援データ(2024年度・月別)を見ると、救援件数の推移は次のとおりです。

救援件数 救援件数
2024年4月 167,845 10月 191,566
5月 167,010 11月 197,622
6月 160,186 12月 223,064
7月 185,940 2025年1月 211,355
8月 204,834 2月 199,384
9月 187,558 3月 198,940

6月の底から8月にかけて、約28%増加しています。年間で最も多いのは12月・1月ですが、8月はそれに次ぐ水準です。

さらに示唆的なのは内訳の変化です。四輪車について2024年6月と8月を比較すると、

  • 破損/劣化バッテリー:9,594件 → 17,537件(約1.8倍)
  • 過放電バッテリー:47,750件 → 56,973件
  • タイヤ(パンク・バースト・空気圧不足):36,633件 → 44,265件

バッテリーの「破損・劣化」が2か月で1.8倍になっている点は、単なる交通量の増加では説明しにくい動きです。高温はバッテリー液温を上昇させて極板の劣化を進めるうえ、エアコン等の電気的負荷が重なります。JAF自身も、夏季は発電量と消費量の不均衡からトラブルが発生しやすいと説明しています。

高速道路に限れば傾向はさらに明確で、2024年8月の高速道路上の出動理由は、タイヤトラブルが43.85%で第1位でした(一般道では21.68%)。高速走行では、空気圧不足のタイヤが発熱してバーストに至る「スタンディングウェーブ現象」のリスクが跳ね上がります。

ただし、8月はお盆期間の交通量増という要因も重なっているため、「暑さだけで28%増えた」と読むことはできません。この点は留保が必要です。


2. 車両火災は「夏に多い」と断定できるか

一方、車両火災については、慎重な言い方が必要です。

総務省消防庁の火災統計では、建物火災や林野火災については月別の出火件数が公表されていますが、車両火災の月別内訳は公表資料に見当たりません。したがって、「全国統計上、車両火災は夏に多い」と断定することは現時点ではできません。

規模感としては、令和5年中の車両火災の出火件数は3,521件、1日あたり約10件です。原因の内訳は次のとおりで、排気管関係が最も多くなっています。

  • 排気管:652件(18.5%)
  • 電気機器:332件(9.4%)
  • 交通機関内配線:298件(8.5%)

夏季との関連を示す一次資料としては、首都高速道路株式会社が2024年8月に公表したプレスリリースがあります。同社は、当該年度の4〜7月の4か月間で首都高上の車両火災が9件発生し前年同期比で倍増したこと、気温が上昇する時期は車両火災が多く発生する傾向にあることを指摘しています。原因の多くはオーバーヒートやオイル漏れによるエンジン部からの出火とみられ、タイヤのバーストから火災に至るケースもあるとしています。また、車両火災が発生すると消火活動や道路施設の復旧のため平均4時間程度の長時間交通規制が必要になるとも記されています。

整理すると、車両火災については次のように言うのが正確です。

  • 全国統計で「夏に多い」と断定できる数字は、現時点で公表されていない
  • ただし、高速道路上では夏季の増加傾向が道路管理者から指摘されている
  • 発火に至るメカニズム(冷却系の異常、オイル漏れ、タイヤバースト)はいずれも高温・高速走行と結びつく

つまり、「夏は火災が増える」と煽るのではなく、「夏の走行条件は、火災に至る故障モードを踏みやすい」と捉えるのが実態に近いと考えられます。

なお、これは統計ではなく個人的な実感にすぎませんが、筆者自身、高速道路を走行していると、酷暑日には車両火災による規制に遭遇する頻度が高いように感じています。エンジン負荷と排気温度が高い状態が続く高速走行に、外気温の高さが重なる。冷却系やタイヤに余裕がなければ、条件が揃ってしまう場所であることは確かです。

もっとも、こうした実感は印象に引きずられやすいものでもあります。渋滞に巻き込まれた記憶ほど強く残るという偏りは、当然あるはずです。だからこそ本稿では、確認できる数字と、確認できていない部分とを分けて記載しています。


3. 事業用自動車では、トラブルが「報告義務」に変わる

ここからが、自家用車と事業用自動車との決定的な違いです。

自家用車であれば、路上で止まってしまってもレッカーを呼べばそれで終わります。

しかし事業用自動車の場合、同じ事象が自動車事故報告規則上の「事故」に該当し、国土交通大臣への報告義務を生じさせることがあります。

報告書の提出(発生から30日以内)

自動車事故報告規則第2条が定める報告対象事故のうち、夏季のトラブルと関係が深いのは次の各号です。

内容
第1号 自動車が転覆し、転落し、火災を起こし、又は鉄軌道車両と衝突・接触したもの<br>※火災=自動車又は積載物品に火災が生じたとき
第11号 自動車の装置(道路運送車両法第41条各号に掲げる装置をいう。)の故障により、自動車が運行できなくなったもの
第12号 車輪の脱落、被牽引自動車の分離を生じたもの
第14号 高速自動車国道又は自動車専用道路において、3時間以上自動車の通行を禁止させたもの

これらに該当した場合、事業者は発生から30日以内に、使用の本拠を管轄する運輸支局長を経由して自動車事故報告書を提出しなければなりません。

特に第11号は見落とされやすい規定です。条文自体は「装置の故障により、自動車が運行できなくなつたもの」と定めるにとどまりますが、その具体的な範囲は通達「自動車事故報告書等の取扱要領」(平成元年3月29日地車第44号・地備第57号、最終改正 令和6年10月1日国自安第77号・国自整第146号)に示されており、次の2類型がこれに当たるとされています。

  •  装置の不具合により自動車の運行を中止したものであって、運行を再開することができなかったもの
  •  装置の不具合により自動車の運行を中止したものであって、乗務員以外の者の修理等により運行を再開したもの

つまり、「オーバーヒートで自走できなくなり、ロードサービスを呼んで応急処置を受け、その後は運行を再開した」という、現場感覚では“よくあること”に近い事象も、ロに該当する限り報告対象になります。運行を再開できたかどうかではなく、乗務員自身で対処できたかどうかが分かれ目になる、という点にご注意ください。

また、車両火災が発生して高速道路上で長時間の通行止めが生じた場合、第1号と第14号の双方に該当し得る点も押さえておくべきです。

速報(24時間以内)──旅客と貨物で扱いが異なる

さらに重大な事故については、電話等により24時間以内に運輸支局長へ速報しなければなりません。ここで注意したいのが、車両火災(第2条第1号)の速報義務は「旅客自動車運送事業者等の事故に限る」とされている点です。

  • 貸切バス・タクシー等の旅客事業者:車両火災が発生した場合、24時間以内の速報が必要
  • トラック等の貨物事業者:火災単独では速報対象ではなく、30日以内の報告書提出

貸切バス事業を営まれている事業者様、あるいは旅行業と運送業を兼業されている事業者様は、この違いを社内の緊急連絡フローに反映させておく必要があります。

添付書類にも要注意

第11号または第12号に該当する事故については、報告書に「車両の故障事故の報告書添付票」を添付する必要があります。ここには、故障した部品および故障部位の名称、当該部品を取り付けてから事故発生までの走行距離、当該部品を含む装置の整備・改造の状況、部品の製作者の氏名等を記載し、故障の状況を示す略図または写真を添えなければなりません。

ただし、同通達により、タイヤのパンク、バッテリー不具合および灯火装置の不点灯(ヒューズ切れを含む)の場合は、この添付書面を要しないとされています。

なお、熱中症により運転を継続できなくなった場合は第9号(運転者の疾病により事業用自動車の運行を継続することができなくなったもの)に該当し、この場合は「運転者の健康状態に起因する事故等の詳報表」の添付が求められます。夏季特有の論点として、あわせて認識しておくべきでしょう。


4. 点検整備義務と、監査での見られ方

事業用自動車には、自家用車より厳格な点検整備義務が課されています。

  • 日常点検整備(道路運送車両法第47条の2):1日1回、運行の開始前に実施
  • 定期点検整備(同法第48条):3か月ごと、および12か月ごと
  • 整備管理者の選任(同法第50条):日常点検の結果に基づく運行可否の決定、定期点検の実施等を行う

定期点検記録簿は自動車に備え付け、1年間保存することとされています。

実務上重要なのは、これらが監査時の確認対象になるという点です。日常点検に基づく運行の可否決定を全く行っていない、複数の車両について1年以上定期点検を行っていない、整備管理規程の内容が実際の業務に即していない、といった状態は、整備管理者の業務遂行として問題があると指摘され得ます。

夏季にトラブルが多発し、そのうちのいくつかが事故報告書として運輸支局に上がる。その報告書には故障部品の整備状況を記載する欄がある。──この流れを考えれば、夏の車両トラブルは、点検整備体制の実態が行政の目に触れる契機になり得るということがお分かりいただけると思います。


5. 実務としての備え

以上を踏まえ、事業者として取り得る対策を3つの層に分けて整理します。

(1)車両側──夏季に重点を置くべき点検箇所

日常点検の法定項目は決まっていますが、夏季は「どこを重点的に見るか」の比重を変える価値があります。

  • 冷却水:量とともに、リザーバータンク付近のにじみ・変色を確認。ホースの硬化やクランプの緩みは高温下で一気に進行する
  • エンジンオイル:量の確認に加え、エンジン下部・排気管周辺へのオイル付着の有無。排気管への油分の付着は、車両火災の原因として最も多い類型に直結する
  • バッテリー:液量、端子の緩み・腐食。夏に酷使されたバッテリーは冬に不具合を起こすため、使用開始からの経過年数(一般に2〜3年が目安)で交換基準を社内で定めておく
  • タイヤ:空気圧、溝の深さ、亀裂・損傷、製造年週。特に高速走行が多い車両は、空気圧不足によるバーストリスクが夏季に跳ね上がる
  • 後付け電装品の配線:ドライブレコーダー、冷蔵冷凍装置、無線機等の後付け配線は、電気系統からの出火経路になり得る。国土交通省の事故・火災情報の統計でも、社外品・後付装置を原因とするものが一定数を占めている

(2)運用側──点呼と運行中の判断

  • 乗務前点呼で、日常点検の実施状況と併せて、前日の運行で感じた異音・異臭・振動を必ず確認する。「なんとなく変」という運転者の感覚を拾える点呼の設計が、火災に至る前の発見につながる
  • 走行中に異音・異臭・警告灯を認めた場合の行動基準を、あらかじめ文書化して運転者に周知しておく。特に高速道路上では、非常駐車帯等の安全な場所に停止したうえで、非常電話または道路緊急ダイヤル(#9910)に通報する手順を徹底する
  • 長距離運行時は、休憩のたびにタイヤと車両周辺を一巡する運用を定着させる

(3)体制側──記録と初動フロー

  • 3か月点検の時期を、繁忙期の前に前倒しできないか検討する。点検周期の起算は法令上動かせませんが、実施計画表の組み方次第で、夏季に入る前に一巡させる設計は可能です
  • 事故報告規則の対象事象を一覧化した判断シートを配車担当者に配布する。「自走不能になったか」「乗務員以外が修理したか」「高速で何時間止めたか」といった、報告要否を分ける事実を現場で確実に記録させる
  • 証拠保全のルールを整備工場と共有しておく。前述のとおり、第11号・第12号の報告には故障部品の情報と略図・写真が必要です。現場で撮影した写真、取り外した部品を、報告書提出まで廃棄せず保管するよう、あらかじめ整備委託先と申し合わせておくことが有効です
  • 熱中症対策の体制整備:令和7年6月1日施行の改正労働安全衛生規則(第612条の2)により、熱中症のおそれがある作業について、①自覚症状のある作業者等が報告するための体制整備と周知、②作業離脱・身体冷却・医療機関への搬送等の実施手順の作成と周知が事業者に義務付けられました。対象は、WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で連続1時間以上、または1日4時間を超えて実施することが見込まれる作業です。荷役作業を伴う運送事業では、該当する場面が想定されます

6. おわりに

夏季の車両トラブルは、統計上、故障については明確な増加が確認できます。車両火災については全国的な月別統計こそ存在しないものの、高速道路上での増加傾向が道路管理者から指摘されており、発火に至るメカニズムも夏の走行条件と符合します。

そして事業用自動車の場合、これらは「運行が止まった」という営業上の損失にとどまりません。自動車事故報告規則上の報告義務を生じさせ、その報告内容を通じて、日頃の点検整備体制が行政に伝わることになります。

裏を返せば、日常点検と定期点検を確実に実施し、その記録を整えておくことは、トラブルそのものを減らす効果と、万一の際に説明責任を果たせる状態を保つ効果の、二重の意味を持つということです。夏季の点検強化を、単なる「注意喚起」ではなく体制の点検として位置づけていただければと思います。


参考資料

  • 一般社団法人日本自動車連盟「ロードサービス救援データ(2024年度:月別)」
  • 総務省消防庁「令和6年版 消防白書」
  • 首都高速道路株式会社「首都高上における車両火災が多発」(2024年8月22日)
  • 自動車事故報告規則(昭和26年運輸省令第104号)
  • 「自動車事故報告書等の取扱要領」(平成元年3月29日地車第44号・地備第57号、最終改正 令和6年10月1日国自安第77号・国自整第146号)
  • 国土交通省「事業用自動車の安全対策」「点検整備の種類」
  • 国土交通省「令和6年 事故・火災情報の統計結果について」
  • 厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」(令和7年5月20日付け基発0520第6号)

本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別事案への対応を保証するものではありません。具体的な報告要否の判断については、管轄の運輸支局または専門家にご確認ください。

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