「いつも頼んでいる業者さん、なんとなく安いとは思っていたけれど…」
そんな漠然とした感覚を持ちながら、廃棄物の運搬や資材の配送を任せ続けている担当者の方は少なくないのではないでしょうか。しかし令和8年4月1日から、その「なんとなく」が会社に法的リスクをもたらす時代が本格的に始まりました。
改正貨物自動車運送事業法(改正トラック法)の施行により、無許可のいわゆる「白ナンバートラック(白トラ)」に有償で運送を委託した荷主側も、新たに処罰の対象となりました。
なぜ今、この問題が注目されているのか
まず「白トラ」問題の背景を押さえておきましょう。
トラックのナンバープレートには2種類あります。他人の荷物を有償で運ぶ事業者が取得する「緑ナンバー(事業用)」と、自家用として登録された「白ナンバー(自家用)」です。緑ナンバーを取るには国土交通大臣の許可が必要で、安全管理体制の整備や、ドライバーの労働条件に関するルール(改善基準告示)の遵守などが求められます。法令遵守を行われていない事業者に対しては、国土交通省は監査を実施し、行政処分のペナルティを課しています。
一方で白ナンバーのままでは、本来こうした義務は生じません。つまり、許可を受けずに白ナンバーで有償運送を行う事業者は、コストを大幅に抑えられます。その分だけ安い価格を提示できるため、善意の荷主が「お得な業者」として使い続けてしまうケースが後を絶ちませんでした。
しかしその背景では、ドライバーが過酷な労働条件にさらされていたり、車両の整備が不十分で事故リスクが高まっていたりすることも少なくありません。
本来、白ナンバートラックであっても、運転業務に主として従事する労働者には「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が適用されます。つまり、緑ナンバーか白ナンバーかにかかわらず、ドライバーの労働時間管理は法的に求められているのです。しかし実態としては、許可を受けた緑ナンバー事業者と異なり、白ナンバー事業者に対しては監査などの事後チェックが機能しにくく、違反が是正されにくい構造が長年続いてきました。
こうした「抜け道」が温存されてきたことが、白トラ問題を根深くしてきた一因です。今回の改正で荷主側への規制が加わった背景には、運送を行う側だけを取り締まっても限界があるという認識があります。委託する側にも責任を持たせることで、違法な白トラが市場から排除されやすい構造をつくろうというのが、法改正の本質的な狙いと言えるでしょう。トラック運送業界の構造的な問題として長年指摘されてきたこの状況を打開するため、令和7年6月に法改正が成立し、今回の施行に至りました。
何が変わったのか——改正の3つのポイント
今回の改正のポイントは大きく3つあります。荷主企業の担当者として特に押さえておきたい内容です。
1. 白トラへの委託が「荷主側の違法行為」になった
これまでは、無許可で運送を行う白トラ業者だけが処罰の対象でした。しかし改正後は、白ナンバーのトラックと知りながら有償で運送を委託した荷主等も、100万円以下の罰金に処されることがあります。
さらに、違法な白トラとの関与が疑われる荷主等は、国土交通省が設置した専門部隊「トラック・物流Gメン」による是正指導の対象ともなります。「知らなかった」では済まされない可能性があるため、委託先の確認体制を整えることが急務です。
2. 再委託の回数に上限が設けられた
元請事業者に対し、再委託の回数を2回までに制限する努力義務が課されます。荷主から受託した元請(ゼロ次)を起点として、一次請け、二次請けまでが許容される範囲です。三次請け以降への委託は禁止となります。
多重下請け構造の中では、最終的に誰が実際に運送しているか荷主には見えにくくなりがちです。この規制は、そうした構造の温床となる「丸投げの連鎖」を断ち切ることを目的としています。
3. 利用運送事業者にも書面交付・管理簿作成の義務が拡大
元請として荷主から運送を受託する貨物利用運送事業者に対しても、トラック運送事業者と同様に、書面交付義務や実運送体制管理簿の作成義務が新たに課されます。これにより、荷主から見て運送の実態を把握しやすくなる仕組みが整備されつつあります。
さらに、貨物自動車を使用する一定規模以上の貨物利用運送事業者には、より重い義務も課されています。貨物自動車を使用した前年度の利用運送に係る貨物取扱量が100万トン以上の貨物利用運送事業者は、委託先事業者の健全な運営を確保するための取組(健全化措置)の実施に関する「運送利用管理規程」を作成し国土交通大臣に届け出る義務と、その実施・管理体制を確保するための「運送利用管理者」を選任し届け出る義務が新たに課されます。運送利用管理者には、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者(取締役など)を選任する必要があります。なお、これらの義務に違反した場合は、100万円以下の罰金が科されることがあります。
廃棄物の運搬はどう扱われるか——環境省からの整理
今回の法改正に合わせて、環境省と国土交通省は連名で重要な事務連絡を発出しました。特に廃棄物処理に関わる排出事業者にとって、「うちの廃棄物処理委託はどうなるの?」という疑問に直接答えるものです。
結論から言えば、廃棄物処理業者が収集・処分と一体的に運搬を行う場合は、貨物自動車運送事業の許可は不要とされています。
その根拠はこうです。廃棄物処理の「主たる業務」は廃棄物の収集および処分であり、運搬はそれを完遂するための付帯業務にすぎない——これが環境省の公式見解です。したがって、廃棄物処理業者が市町村や排出事業者との包括的な委託契約に基づき、廃棄物の運搬と収集・処分を一体として実施する場合、その運搬行為は「自己の生業と密接不可分な付帯業務」とみなされ、トラック法の許可を必要としません。
ただし、重要な例外があります。 収集・処分を伴わない「運搬だけ」を単独・有償で請け負う場合は、許可が必要となります。このケースが白トラ規制の対象となりうるため、委託契約の内容と実態が一致しているかを改めて確認する必要があります。
具体的には、たとえば以下のような状況が該当しうると考えられます。収集・処分は別の業者に依頼しており、運搬だけを切り出して別の業者に有償で委託している場合、あるいは包括的な処理契約を結ばずに「この廃棄物をあの場所へ運んでほしい」とスポットで運搬のみを依頼している場合などです。ただし、個別ケースの適法・違法の判断は状況により異なりますので、具体的な事案については地方運輸局や自治体の窓口にご相談ください。
排出事業者として気をつけるべき点は、この判断を委託先任せにしないことです。「包括的な委託契約に基づく一体的な業務か否か」の実態確認は、市町村や排出事業者自身が適切に行った上で業者を選定するよう、事務連絡でも明示されています。
なお、産業廃棄物の処理に際して排出事業者に義務付けられているマニフェスト制度(産業廃棄物管理票)とは、法体系が異なるため直接の関係はありませんが、実務上は無関係とも言い切れません。マニフェストには収集運搬業者と処分業者がそれぞれ記載されます。運搬業者と処分業者が別々に記載されているにもかかわらず、運搬業者が緑ナンバーを持っていない場合、「運搬のみを単独・有償で委託していた」実態の記録として残ってしまう可能性があります。マニフェストを適切に運用し、収集・処分を一体で委託している実態をしっかり記録しておくことが、排出事業者としてのリスク管理にもつながると言えるでしょう。
自家用ダンプカーの問題——建設廃棄物を扱う事業者も要注意
建設系の廃棄物を排出している事業者にとっては、もう一つ注意すべき論点があります。建設現場でよく見かける「個人事業主が持ち込む自家用ダンプカー」の扱いです。
国土交通省の事務連絡によれば、自家用ダンプカーで許可が不要となるケースは大きく2つあります。
一つは、建設関連会社が自ら所有する貨物を自ら運送する場合です。たとえば土砂等販売業者が販売目的で購入した土砂を、自社の従業員(日雇いを含む)に運ばせるケースがこれにあたります。
もう一つは、建設関連会社等の生業と密接不可分な付帯業務として運送を行う場合です。建設工事を請け負った会社が、その工事で発生した残土等を自社従業員に運ばせるケースなどが該当します。ただしこの場合、①生業との密接不可分性、②同一の者が生業と運送を一貫して行うこと、③運送行為への有償性がないこと、という3要件をすべて満たす必要があります。
逆に言えば、これらの要件を満たさない個人事業主のダンプカーに有償で運送を委託している場合、排出事業者(荷主)側にも今回の規制が及ぶリスクがあります。 建設廃棄物の処理委託においても、契約形態と実態の両面から見直しを行うことが求められます。
担当者として今すぐ確認すべきこと
法律の話が続きましたが、実務的に何をすればよいか整理しておきましょう。
まず委託先の許可証を確認しましょう。 廃棄物処理業者や運送業者に対し、貨物自動車運送事業の許可(緑ナンバー)の有無、あるいは廃棄物処理業の許可証を改めて確認することが基本です。口頭での確認にとどまらず、書面で確認・保存しておくことが望ましいです。
次に委託契約の内容と実態を照らし合わせましょう。 廃棄物の場合、「収集・処分と運搬が一体的に委託されているか」「運搬だけを切り出して別業者に有償委託していないか」を確認します。建設廃棄物では「ダンプカーの運転者と雇用関係があるか」「運送行為のみへの対価が発生していないか」なども確認ポイントです。
判断に迷う場合は、地方運輸局の窓口に相談しましょう。 国土交通省の事務連絡には、各地方運輸局の貨物課の連絡先が明記されています。個別ケースの判断に迷ったときは、自社の主たる事務所を管轄する地方運輸局に相談することが推奨されています。
おわりに——「知らなかった」では済まされない時代に
白トラ問題は、長年にわたってトラック運送業界の「影」の部分として存在してきました。今回の改正は、荷主側にも「委託先を適切に選ぶ責任」を明確に課すものです。
廃棄物処理における「収集・処分と一体の運搬」や、建設現場における「生業に付帯する運送」については、一定の合理的な整理がなされました。しかしそれは、現場の実態が要件を満たしている場合に限った話です。
適正な業者を選び、契約の実態を把握し、問題があれば是正する。それが今、荷主・排出事業者に求められている姿勢です。「いつも頼んでいるから大丈夫」という経験則ではなく、法令に基づいた確認プロセスを社内に整備することが、担当者としての第一歩となります。
【ご注意】 本記事の内容に関するお問合せは、行政書士法人シグマでは受け付けておりません。個別の事案については、主たる事務所を管轄する地方運輸局(貨物自動車運送事業法関連)または都道府県・政令市の廃棄物行政主管部局(廃棄物処理法関連)に直接ご照会ください。
参考:環境省環境再生・資源循環局「廃棄物の処理と貨物自動車運送事業に係る許可等の関係について(周知)」(令和8年3月16日)、国土交通省物流・自動車局「自家用ダンプカーの貨物自動車運送事業法における取扱いについて」(令和8年2月10日)








